京都人の「いけず」を応用した、上司を怒らせずに嫌味を言う方法

上司や取引先に“怒られない程度の嫌味”が言いたい

概要

社会に出ると理不尽なことは多々ありますが、そこへの憤りをぐっと飲み込んで対応しなければなりません。しかし、我慢するだけではストレスが溜まってしまいます。
このレポートでは京都人の「いけず」を元に、上司や取引先には直接言えない文句や罵声を『怒られない程度の嫌味』に変換する法則を導き出しました。

背景

日本人の退職理由について「リクナビNEXT」が調査をしたところ、最も多かった理由は「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」でした。

1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
2位:労働時間・環境が不満だった(14%)
3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)

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どんなに理不尽なことをされても、立場が弱いと言いたいことが言えずに、不満だけが溜まってしまい、退職まで至ってしまうのかもしれません。

多くの方が同じような経験を何度もされているのではないでしょうか。

例えば相手が上司でなくても、取引先やクライアントであった場合、取引を続けるために関係性を良好に保つ必要があるので、理不尽なことを言われても飲み込まなければならない場面があるはずです。

しかし、我慢しているだけではストレスが溜まる一方です。
ストレス社会の日本において、「理不尽な相手との関係性を壊すことなく、ダメージを与えてストレスを軽減する方法」が求められているのかもしれません。

そうだ、京都人を見習おう

上司に対して、露骨に非難したり、暴言を吐くと職場環境に支障が出ます。
そこで遠回しに嫌味を言う必要が出てくるのですが、その代表例といえば京都人の「いけず」ではないでしょうか。

有名な例で言えば、長居している客に対して京都人は「早く帰れ」という意味で「ぶぶ漬け(お茶漬け)でもどうどすか?」と聞いたり、うるさい子供を連れている親にも直接注意せず「元気どすなあ」と言ったりするそうです。

つまり「いけず」とは、表向きの体裁を整えたまま、遠回しに嫌味を伝えることができる画期的ツールなのです。

実際、京都人の「いけず」は相手との関係を悪くしないために生まれたものだとする説があり、中でも東京大学名誉教授の養老孟司氏は著書「京都の壁」において『京都では政権が何度も変わったため、どっちつかずな言い方をしなければ生き残れなかったのではないか』という仮説を唱えています。

この「いけず」をビジネスの場面に応用できれば、関係性を崩すことなくストレスを解消することができるはず。
一体どのようにすれば、ビジネスの現場で「言えないこと」を「いけず」に変換できるのでしょうか?

憤りをいけずに変換する「ぺこぱモデル」

いけずの事例をいくつか見ていると1つの法則が見えてきました。
それは「否定的な意味をあえて無理矢理に肯定している」という点です。

例えば最初に思い浮かんだ本意が「長居しやがって」だったとして、それを無理矢理に肯定すると「居心地が良いと思ってくれている」となります。
その上で出てくる発言が「ぶぶ漬けでもどうどうすか?」なのです。

①否定的な本意②無理矢理に肯定③いけず発言
長居しやがって居心地が良いと思ってくれているぶぶ漬けでもどうどすか
うるさいガキだな元気があっていい元気な子やねえ
余計なこと言うなそれだけ知識がある勉強してはるわ

つまり「②無理矢理に肯定」という作業を通せば、何でも「いけず」に変換することが可能なのです。
そして、この部分はお笑い芸人「ぺこぱ」の漫才におけるツッコミと似ていることに気が付きました。

例えば「M-1グランプリ 2019」で披露された「タクシー運転手のネタ」のボケとツッコミを見てみましょう。

ボケ(理不尽)ツッコミ(肯定)
車でぶつかってくる「どこ見て運転してんだよ」って言えるぐらい無事で良かった
また車でぶつかってくる2回もぶつかるってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない
客を乗せている最中に休憩する休憩は取ろう、働き方を変えていこう
M-1グランプリ 2019で披露された「タクシー運転手」のネタより

ご覧の通り、明らかに理不尽で非のあるボケを、無理矢理に肯定しています。
以上のことから「②無理矢理に肯定」の作業はぺこぱを意識して変換してみることにしました。

「言えなかった言葉」を「いけず」に変換

知人や友人たちに「上司や取引先に言いたくても言えなかった言葉」を聞いたところ、すぐに50以上のワードが集まりました。

言えなかった言葉(一部)
それ前にも言いましたよね?
共有の仕方雑じゃないですか?
確認してくださいと言ったはずですが
あれ、自分でやるって言いましたよね?
今その話する必要ある?
あなたは口だけですね

試しに「それ前にも言いましたよね?」を「いけず」に変換します。
おそらく状況としては「前に説明した内容を上司が忘れていて、もう一度確認されている」のだと考えられます。

ぺこぱの松陰寺氏であれば、この上司にどうツッコミを入れるでしょうか。
3つのパターンを考えてみました。

前に説明したことを忘れている上司に対して…
A:「忘れているのなら何度でも教えればいい!」
B:「俺のために再確認してくれているのかもしれない!」
C:「あれ、俺はタイムリープしているのか…?」

これらをすべて「いけず」に変換してみます。

無理矢理な肯定いけず発言
A:忘れているのなら何度でも教えればいい!A:以前お伝えした内容でも構いませんので、気兼ねなくご確認ください
B:俺のために再確認してくれているのかもしれない!B:再確認ありがとうございます
C:あれ、俺はタイムリープしているのか…?C:つかぬことをお伺いしますが、今は何月何日でしょうか

Aはとても実用的ですが、相手にダメージを与えることができません。
Cは「頭がおかしくなった」と思われ、人としての信頼関係に支障をきたす可能性もあります。

その点Bであれば、その場では多少の違和感はあってもその場で怒られることはなく、上司は家に帰って晩酌するぐらいで「あれもしかして嫌味だったのかな?」と思う程度にダメージを与えられそうです。

より具体的に使用シーンを想像してみましょう。

具体的にイメージすると、少しバレそうにも思えますが、もし万が一「再確認」というワードに引っかかってしまっても、「私がとても忘れっぽいので、リマインドしていただけてありがたいという意味です!」と返せば大丈夫でしょう。

ここで分かるのは、そもそも一度「肯定する」というフローを経ているので、言い逃れできる道が必ず存在するということです。

明日から上司に使える「いけず」の文例

この「ぺこぱ変換法」を使って、他にもいけずな言い回しを考えてみました。

「概要が」を強めに言うのがポイントです
「人事とか向いてますよ」と部署移動や転職を提案しても良いでしょう
怒られるかもしれません
これは怒られるでしょう

こんな具合に、考え方のフローに則れば自然といけず発言が生み出せることがわかりました。皆さんも上司や取引先に腹が立った時は、一度心にぺこぱを思い浮かべて、いけず変換してみることをオススメします。

まとめ

いけずは用法と用量を守ってお使いください

いけず発言を考えている中で、1つだけこの方法の弱点が分かりました。
それは繰り返し使っていると発言が全部嫌味に聞こえてきてしまうという問題です。

1回や2回であれば上司も「考えすぎかな?」と思うぐらいで済むのですが、何度もやっていると「こいつ絶対に嫌味だな」と認識されてしまいます。
すると何の気なしに上司に感謝したりするだけで「今のは何の嫌味なんだろう」と思われてしまい、まさに現代の京都人と同じ「いけず」のレッテルを貼られてしまいかねません。

普通に会話しているだけでも怒られるようになっては、本末転倒ですから。


この研究に参加したメンバー

岡シャニカマ
すぎのふ

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