学生・企業・ギャラリー・飲食店など、さまざまな属性の人をつないで対話を生みだせるか

概要

就職活動に悩む美術・芸術大学生とうつぼエリアのクリエイティブ企業をつなぐことで、企業・学生間の交流創出やうつぼエリアの活性化をめざしてきた「UTSUBO DESIGN TOURS」。今年は初参加の3社を含めたクリエイティブ企業14社、昨年の50名から大幅に数を増やした学生150名にご参加いただき、2022年6月25日に3回目となるイベントを開催しました。

「対話」をイメージして制作した「UTSUBO DESIGN TOURS 2022」ロゴマーク

[開催日時] 2022年6月25日(土)13時~20時
[会場] うつぼエリアのクリエイティブ企業各オフィス
     うつぼエリアの飲食店
    「メタセコイア キョウマチボリアートフェア2022」展示会場
[内容] ① うつぼエリアのクリエイティブ企業のオフィス見学
     ② うつぼエリアの飲食店とのコラボレーション
     ③「メタセコイア キョウマチボリアートフェア2022」とのコラボレーション
     ④ 代表企業によるパネルディスカッション
     ⑤ 企業と学生の交流会
[参加者] 150名(大学生3,4年生、専門学校生2年生)
[参加企業] うつぼエリアのクリエイティブ企業14社
[主催] うつぼ町内会 ※
[協力] 学校法人瓜生山学園 京都芸術大学、学校法人塚本学院 大阪芸術大学・大阪芸術大学附属大阪美術専門学校、学校法人Adachi学園 大阪デザイナー専門

※ うつぼ町内会 … 株式会社人間やうつぼ周辺企業が主となり、靭公園やその周辺をより活性化させる活動を行うチーム

背景

第1回・2回と回を重ねるごとに、イベントを通した企業と街のつながりの強化や、うつぼエリアのPRに成功してきた「UTSUBO DESIGN TOURS」。企業と学生の深い接点づくりも実現し、ツアー後に参加学生が企業でインターンを行ったり、実際に新卒社員として入社したり、という事例も生まれてきています。
3回目の開催となる今回は、対象大学・参加学生の数を増枠するとともに、飲食店やアートイベントなど、「UTSUBO DESIGN TOURS」に関わるステークホルダーを拡張。規模の拡大・接点の多角化によって、うつぼエリアを軸とした人同士のつながりを深め、対話を創出することをめざしました。

ツアーガイドがうつぼエリアを案内している様子

実験「地域イベントを通じて、さまざまな属性の人をつなぎ、対話を生み出せるか」

イベントは前回同様、「参加者全員のマスク着用を義務付け」など万全のコロナ対策を行った上で実施。第1回・2回共にご参加いただいている京都芸術大学に加え、大阪芸術大学、大阪芸術大学附属大阪美術専門学校、大阪デザイナー専門学校の学生も新たに募集対象としたことで、のべ150名もの学生にご参加いただけました。

参加企業は、前年も参加した「株式会社アクアスター」、「株式会社アストラカン大阪」、「株式会社京阪神エルマガジン社」、「株式会社common graphic」、「有限会社JIKAN Design」、「株式会社ZIZO」、「有限会社デコラティブモードナンバースリー」、「株式会社人間」、「株式会社parks」、「株式会社ミーティング」、「リノべる株式会社」の計11社に加え、今回は「株式会社アートアンドクラフト」、「有限会社CEMENT PRODUCE DESIGN」、「株式会社NONVERBAL」の3社が新しく加わりました。

また初の試みとして制作したのが、うつぼ公園周辺の協力飲食店11店舗で使えるイベント独自のクーポン「UTSUBO FOOD TICKET」です。チケットはイベント当日に利用できる「当日券」、イベント後にうつぼエリアを再訪した場合に使える「明日から券」、各店が提示したお題に学生が自分のクリエイティビティを生かして応えることで、より大きな割引を受けられる「ボーナスチャレンジ券」の3枚構成で制作。飲食店と学生との間に対話を生みだし、学生のうつぼエリア再訪につながる仕組みをつくりだしました。

協力飲食店は、「STAND YAЁ」、「スパイス居酒屋はらいそSparkle」、「CAFÉ SIK」、「コトモノミチ at パークサイドストア」、「neji」、「chignitta SPACE」、「サヨナラ天サン」、「チュロカアーラ」、「CHASHITSU Japanese Tea & Coffee」、「グランドカンテ靱公園店」、「YES!BURGER」の11店舗です。

さらに、同時期にうつぼエリアで開催されていた「メタセコイア キョウマチボリアートフェア2022」とのコラボレーションにも挑戦。イベントの一環として展示を観覧できる自由時間を設け、アートを学ぶ芸大・美大・専門学生たちの学びの機会を設けました。

「メタセコイア キョウマチボリアートフェア2022」ともコラボ

結果と考察

コロナ禍という多くの制限がかかる状況下のなかで、「うつぼエリアの街としての知名度向上」と「企業の内面や、スタッフの人柄を開示する」という、2つの目標を達成した2020年、2021年の「UTSUBO DESIGN TOURS」。

3回目の開催となった今回は、「より深く多様なつながりと、対話の創出」を目標にイベントを行いました。ここからは今回の目標を主体に、イベントの開催意義とその成果についてご説明いたします。

目的:地域イベントに関わるステークホルダーを拡張し、うつぼエリアにおけるより深い人のつながりと対話を創出する

第3回となる今回は、クリエイティブ企業、京都芸術大学のみならず、うつぼ周辺の飲食店やアートイベント、新たに参加する3校へとステークホルダーを拡張。これはより多くの学生にクリエイティブ企業のことのみならず、うつぼエリアの賑わいを創出している飲食店・他のイベントにもふれていただくことで、うつぼ公園を中心とした多様なつながりを創出するためです。

またクリエイティブ企業を訪問するツアーにおいては同学校の学生が固まらないように班分けを行うことで、他芸大・美大・専門学生同士が交流できる機会を創出。「UTSUBO FOOD TICKET」を用いた飲食店と学生の接点づくりにも取り組みました。加えてイベント終盤にはコロナ対策を徹底した上で、有志の学生と企業による交流会も実施。これらの取り組みを行ったのは、学生と飲食店と企業が多様なかたちで出会い、対話することで相互につながりを深めていくためです。

また、第2回で好評だった「パネルディスカッション」を今回も実施。「新卒編」と題した一部には、「UTSUBO DESIGN TOURS」をきっかけにうつぼエリアのクリエイティブ企業に入社した方や、コロナ禍における内定取り消しを乗り越えて就職を決めた若手社員3名が登壇。やりたいことを仕事にしたモデルケースとして、参加学生に向けた就活へのアドバイスなどを語っていただきました。

二部の「代表編」には、うつぼエリアのクリエイティブ企業の代表4名が登壇。クリエイターとして独り立ちをするまでのキャリアのあゆみや、うつぼエリアの魅力についてお話しいただきました。

若手とベテラン、それぞれの視点でクリエイティブへの考え方、うつぼエリアの魅力について語っていただいたパネルディスカッション。このコーナーを通じて、学生たちの企業理解と、うつぼエリアへの親近感を深めることができたと考えています。

イベントの成果としては、学生が参加企業のインターン生となる事例が多くあったほか、飲食店と企業、企業と企業など「UTSUBO DESIGN TOURS」まで知り合うことのなかった組織同士の多様なつながりが生まれました。

アンケート結果[参加学生 / 参加企業]

イベントの終わりには、今回参加してくれた「参加学生」、「参加企業」向けにアンケートを実施しました。

参加した学生のアンケート結果

まず、学生向けに行ったアンケートの「就職活動で目安にしている基準」という項目では、ほかの項目と大きく差をつけ「働く場所や地域」「一緒に働く人」を重視しているという、昨年度とおおむね同じアンケート結果が集まりました。

「うつぼエリアで働くことに興味がありますか?」という設問では、89.6%の学生が「とても興味がある」「興味がある」と回答しました。学生が「就職活動で目安にしている基準」で最重要視したのは、「働く場所や地域」というデータを踏まえたうえで、今回のツアーでうつぼエリアに興味をもってもらえた結果は、十分なPRが行えたことを示しています。

・代表や社員の方に直接お話を伺う事ができたので、Webサイトを読むだけでは分からなかった社風・社員の人柄や関係性を肌で感じることができた。

・オンラインでの就職活動が多い中、対面で会社の見学をしたりお話を聞くことが出来たりしたので、とても有意義な時間になりました。

・皆様とても楽しそうに話されていて、実際私もうつぼ公園周辺で働いてみたいと感じさせられるイベントでした。

・カフェの時間を設けて頂いたりと、ちょっとした息抜きなどが出来、重々しい空気にならず楽しみながら参加することが出来ました。

・靱公園という場所を知るところから始まったので、マップやチケットがあるのは周辺を知るきっかけになり嬉しかったです。

そのほか、学生向けアンケートで寄せられた意見では、上記のように「興味がある企業のスタッフと、直接話ができる」点に肯定的な声が集まりました。
初の試みとなった「UTSUBO FOOD TICKET」についても、周辺地域を知ってもらう機会の創出となったことがうかがえました。

参加した企業のアンケート結果

また、企業向けに実施したアンケートでも、93.3%がイベントに対し「とても満足した」「満足した」と回答してくれたうえで、「うつぼ町内会の活動に参加したいですか?」という「うつぼエリア」に対する関心度を示すアンケートでも「はい」と、肯定的な意見が93.4%を占めました。

・採用活動としてではなく、交流を入り口に学生や他社の方々と直接対話できた。

・他企業様とのつながりをもてること、学生さんに知っていただける機会であること、自社若手社員のチャレンジにつながることがとても良かったです!

・学生のリアルな意見を知れた。

企業にとっても、コロナ禍における採用活動には苦戦していましたが、「イベント参加企業」向けアンケートでは、本イベントを通して新たな採用活動の形を見出したという意見が多かったです。
また、今まで繋がりがなかったうつぼエリアの企業との交流が生まれたことや、若手社員のチャレンジの場としてのメリットが感じられたとの意見も多くみられました。

まとめ

「UTSUBO DESIGN TOURS 2022」は、株式会社人間・株式会社parksの2社が主催としながらも、うつぼエリアのクリエイティブ企業が複合的に参加している「うつぼ町内会」参画メンバーを主体として、多くの企業が運営側に関わり、自分ごととしてイベントを開催することができました。この活動を通じ、各企業の若手メンバーの絆が深まったことは、エリア一帯の活性化に直接的につながる大きな成果。ツアーをきっかけに「うつぼ町内会に入りたい」と志望してくれる企業もさらに増加しており、地域に根ざしたリアルイベントが人同士のつながりを深め、エリアを活性化する上で非常に重要な役割を担っていることを、改めて実感できました。

一方で、イベントの対外的なPRに重きをおいていたことが原因となり、運営に関わっていない参加企業全体にイベント情報が行き渡っていない事例も見られました。このことから、今後は参加企業の社員をより多く、深く、イベントの主催側に巻き込み、「UTSUBO DESIGN TOURS = 自分たちのイベントである」という認識をさらに広げていく必要があると考えています。

次回の「UTSUBO DESIGN TOURS」は、2023年春の開催を予定。その際には各大学への情報発信を増やし、参加大学の数を増枠することと、企業や学生だけでなく、うつぼエリアの飲食店もイベントに協力していただける仕組みをつくりたいと考えています。

プレスリリース:
大阪市西区うつぼエリアの企業14社が学生向けオフィスツアー「UTSUBO DESIGN TOURS 2022」2022年6月25日開催


この研究に参加したメンバー

花岡
久岡 崇裕
白井 康太
松原愛美
小園智香
村川晃一郎
米山菜乃花
山本あゆみ
伊藤加奈
武内音

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