公園から地域の在り方を考える「うつぼ公園みらい会議」実施による、公園のMy park化

概要

大阪市西区靱本町に位置する「靱公園(以下:うつぼ公園)」。都市の中心部に位置しながら、豊かな自然と歴史を残すこの公園が、今後どのような存在になっていくことが、周辺に住む人、働く人の幸せにつながるのか。「うつぼ公園の未来のあり方」を考えるため、公園周辺で地域活性化をめざすうつぼ町内会と、公園に隣接する大阪科学技術センターが主催となり、全5回にわたって「うつぼ公園みらい会議」を実施しました。

第1回 「うつぼ公園の歴史と自然環境」
 開催日: 2021年10月4日(月)
 会場: 一般財団法人大阪科学技術センター

第2回 「パークマネジメントとは」
 開催日: 2021年10月18日(月)
 会場: 株式会社ZIZO

第3回 「うつぼ公園とつながる食文化」
 開催日: 2021年11月4日(木)
 会場: TAKAMURA WINE&COFFEE ROASTERS

第4回 「公共空間のひらきかた」
 開催日: 2021年11月18日(木)
 会場: ICT靱テニスセンター

第5回 「My parkといえる日」
 開催日: 2021年12月8日(水)
 会場: リノベる 大阪 靱公園 ショールーム

[参加者] 公園周辺にお住まいの方々、公園周辺企業・飲食店 など、累計197名
[主催] うつぼ町内会、一般財団法人大阪科学技術センター

背景

昨今急速に進む「都市公園の民営化」。大阪もその例に漏れず、「天しば」や「大阪城公園」など、大規模な都市公園が次々にリニューアルされています。こういった事業によって公園利用者の増加が望める一方で、その推進にあたっては、地域と関係の薄い外部企業が指定管理を担う例も増えています。パワフルな外部の企業にのみ頼ることなく、地域住民や周辺企業が公園の運営に関わり、「自分たちの場所」として公園を豊かにしていくためには、どのようなことを知り、考え、動いていけばいいのか。そういった思考・行動の土台となる知識を得るため、全5回にわたる「うつぼ公園みらい会議」を実施しました。また会議終了後には、会議の内容をまとめた冊子「うつぼ公園みらい会議 REPORT BOOK」を刊行。周辺地域に住まうより多くの人に、うつぼ公園について考えるきっかけを持っていただける機会創出をめざしました。

『うつぼ公園みらい会議 REPORT BOOK』は、
こちらから閲覧・ダウンロードいただけます。

実験:公園から地域の在り方を考える「うつぼ公園みらい会議」実施による、公園のMy park化

うつぼ公園の未来を考えるための、多角的な知識・アイデアを得るため、1〜4回目の会議ではそれぞれに異なるテーマを設定したうえで実施しました。

第1回ではうつぼ公園のこれまでのあゆみと、公園が有する自然環境の豊かさ・貴重さを学び、第2回には公園をマネジメント・運営するために必要な考え方を学習。第3回は食のプロフェッショナルによるパネルディスカッションを行って、うつぼエリアの食文化のユニークさや魅力を再確認し、第4回は地域の人が「自分の場所」として利活用できるよう、公共空間を外に向かってひらいていった事例を学びました。同時に各会議後半には、うつぼ公園周辺企業にもご登壇いただき、それぞれが考えた公園活性化のためのアイデアを発表するコーナーを設定。参加者が、公園の未来についてイメージを広げられるような時間を設けました。

最終回となる第5回は、これまでに吸収した知識やアイデアを生かして、自分だけの「My park」を描く、グループワークを実施。参加者同士でチームを組み、会社や肩書きを超えてディスカッションを行いながら、地域やそこで暮らしを営む人を幸せにする公園のあり方を考えました。

第1回「うつぼ公園の歴史と自然環境」

「うつぼ公園の歴史と自然環境」をテーマにした第1回。靱公園自然研究会 代表 桂孝次郎さんと、靱連合振興町会 会長 道上武男さんにご登壇いただき、1955年に誕生したうつぼ公園がこれまで刻んできた歴史と、自然の豊かさ、都市防災の要としての公園の役割についてお話しいただきました。

株式会社parks 久岡崇裕さんによる発表。
公園の自然に関わる機会を増やす「いのちの森の守り人」、「公園食」という新しい食文化を広げる「Utsubo Park Food」といったアイデアをご提案いただきました。
有限会社CEMENT PRODUCE DESIGN 三嶋貴若さん、志水明さんによる発表。
バラ園の花を活用する「バラを再利用したプロダクト」、テニスコートのボールを楽しく使う「ロストボールをリユース」、台風などで倒れた木を再利用する「森まるごとリユース」といったアイデアをご提案いただきました。

第2回「パークマネジメントとは」

「パークマネジメントとは」をテーマにした第2回。株式会社公園マネジメント研究所 所長  小野隆さんにご登壇いただき、公園を運営していくにあたって必要な知識や考え方、マネジメントの刷新によって多くの人から愛されるようになった世界中の公園の事例などについて、お話しいただきました。

graf(有限会社デコラティブモードナンバースリー) 服部滋樹さんによる発表。
NYのセントラルパークのように、市民が公園のことを自分ごと化して考え、運営に積極的に関わることで、うつぼ公園にも「My Parkといえる日」がやってくるはず、というお話をしていただきました。
一般財団法人大阪科学技術センター 大原將仁さんによる発表。
千葉大学予防医学センターの調査結果に基づき、公園が地域住民の健康に与える好ましい変化についてのデータを示すと共に、「コミュニティースペースとしての公園のあり方」をアイデアとしてご提案いただきました。

第3回「うつぼ公園とつながる食文化」

「うつぼ公園とつながる食文化」をテーマにした第3回。株式会社Office musubi 代表取締役/スモーガスバーグ日本窓口 鈴木裕子さん、TAKAMURA WINE&COFFEE ROASTERS 焙煎士 岩崎裕也さん、株式会社京阪神マガジン社 「Meets Regional」編集長 松尾修平さんによるパネルディスカッションを行い、うつぼエリアの食文化が持つ特徴や魅力、公園が広げる食の可能性について語り合っていただきました。

株式会社ドリッパーズ 川久晋悟さんによる発表。
周辺の飲食店の方やこどもたちなど、だれもが公園内で移動販売を行える「移動解体式うつぼ公園リアカー店」のアイデアをご提案いただきました。
株式会社NONVERBAL 高橋直也さん、伊藤加奈さんによる発表。
食事にイートイン・テイクアウトに次ぐ「GO PARK」という選択肢をつくる「第3の飲食スペース」、公園周辺の飲食店が売れ残った商品を販売できる「UTSUBO FOOD HUB」、どろんこになった分だけいいことがある、こどもたち向けの「どろんこマイル制度」といったアイデアを提案いただきました。

第4回「公共空間のひらきかた」

「公共空間のひらきかた」をテーマにした第4回。株式会社ワイキューブ・ラボ 代表/一般社団法人水辺ラボ 代表理事/都市魅力プランナー 杉本容子さんにご登壇いただき、公共空間である水辺を市民にひらかれた場所に変えてきた経験・実例についてや、うつぼ公園が持つ可能性の大きさ、そこに寄せる期待についてお話しいただきました。

えほんpicnic実行委員会 櫻井宏充さんによる発表。すでに開始しているプロジェクト「かえっこえほんわらしべ method〜ときめきまち探検〜」について紹介いただき、まちとひと、ひととひとが「絵本」を通じてつながる豊かさを示していただきました。
有限会社JIKAN Design 鍛治周作さんによる発表。
うつぼ公園のもつ磁力が引き寄せた、ユニークなクリエイティブ企業や飲食店が、公園を使ってさらにカルチャーを発信していく「うつぼカルチャー FEEDBACK」のアイデアをご提案いただきました。
株式会社Arts&Crafts 西川純司さんによる発表。
どんな属性、世代の人も受け入れられる銭湯やランステーション、ナップスペースなどを設置し、公園を「多様性受容力をもった施設」に変えていくアイデアをご提案いただきました。

第5回「My parkといえる日」

「「My park」といえる日」をテーマにした第5回。参加者を8つのチームに分けて「こんな公園にしたい!」「こんな公園があったら楽しいはず」というアイデアのディスカッションを行い、公園の未来の自分ごと化・イメージの具体化を試みました。

思いついたアイデアは付箋に書き留め、うつぼ公園の地図の上に貼りつけ。これが、「うつぼ公園みらい会議 REPORT BOOK」に掲載されている「うつぼ公園みらい絵図」の元になりました。
まとまったアイデアはチーム代表者が全員の前で発表。graf(有限会社デコラティブモードナンバースリー) 服部滋樹さんから講評をいただきました。

全5回の会議が終了した後は、そこで得たもの、会議から見えてきたことをまとめた「うつぼ公園みらい会議 REPORT BOOK」を制作。うつぼ公園について自分ごと化できる人を増やすことをめざして、行政各所や地域の方々に向けて広く配布しています。冊子の中には、第5回のワークショップで出たアイデアをぎゅっとイラストに詰め込んだ「うつぼ公園みらい絵図」や、冊子片手に公園を訪れて遊ぶことができる謎解きコンテンツなど、年齢を問わず楽しめるコンテンツを盛り込みました。

『うつぼ公園みらい会議 REPORT BOOK』は、
こちらから閲覧・ダウンロードいただけます。

結果と考察

うつぼ公園周辺には、たくさんの人が住み、働き、暮らしを営んでいます。これだけ多くの人が集まる場所なのだから、うつぼ公園と、そこに流れる時間・雰囲気が好き、大切にしていきたい、と思っている人もそのぶん多くいるはずです。ただいくら公園のことが好きでも、ひとたび公園の未来に話が及ぶと「公園は行政のものだから」、と一歩引いて考えてしまうのも事実。その思考の枠を一歩踏み出して、公園を自分ごと化し、生活の一部として未来を描いてみよう。そんな想いから「うつぼ公園みらい会議」は始まりました。

運営側も公園に関する専門的な知識がないなか、会議は手探りでスタート。しかし回を重ねるごとに、公園に対する正しい知識、幅広いアイデアがインプットされ、少しずつ参加者の頭の中に「うつぼ公園の未来像」が具現化されていくのを感じ取れました。

その結果として生み出されたのが、第5回の「うつぼ公園みらい絵図」です。参加者が楽しみながら、こんな公園になったらいいな、というイメージの羽根を広げ、「My park」を描いたイラストになっています。公共空間である公園であっても、地域の人間が集まってディスカッションを重ね、足りない知識は専門家に補っていただくことで、「自分ごと化」できる。そんな事例を、この会議を通してつくることができました。うつぼ町内会は、今後も公園を取り巻く状況の変化に合わせながら、地域の人間と協力しあって「My park=うつぼ公園」について思考を続け、未来を描いていきます。

文:小園智香
写真:ローラ・トン


この研究に参加したメンバー

花岡
久岡 崇裕
白井 康太
松原愛美
小園智香

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